
「ゲームばかりしていて大丈夫かな?」と、お子さまの遊び方に不安を感じている保護者の方は少なくありません。一方で、2020年度から小学校でプログラミング教育が必修化され、「プログラミング的思考」という言葉を耳にする機会も増えてきました。実はこの2つ、決して無関係ではありません。
その好例として注目したいのが、Nintendo Switchの人気ソフト「マリオカート8 デラックス」です。何気なく遊んでいるレースゲームの中には、「どんな条件で操作すれば速く走れるのか」を考え、実際に試し、結果を見て修正するという、プログラミングと共通する思考プロセスがたくさん詰まっています。
本記事では、任天堂公式サイトで紹介されている基本テクニックのうち、特に、ドリフト・ミニターボとタイムアタック・ゴーストに注目し、ゲームを通してどのようにプログラミング的思考が身につくのかを、より本質的な視点から解説していきます。
目次
マリオカートはプログラミング的思考が詰まったゲーム

マリオカート8 デラックスは、マリオやルイージなどおなじみのキャラクターを操作し、アイテムを駆使しながら順位を競うレースゲームです。子どもから大人まで直感的に楽しめる一方で、上位を目指そうとすると、操作のタイミングや走るラインを細かく考える奥深さがあります。
任天堂公式サイトの「イチからはじめるマリオカート8 デラックス」では、ライバルに差をつけるための基本テクニックとして、例えば以下のようなものが紹介されています。
- ロケットスタート
- ドリフトとミニターボ
- ダッシュボードやジャンプアクションの活用
- タイムアタックとゴーストを使った練習
これらのテクニックに共通しているのは、なんとなくボタンを押すだけでは成功しないという点です。どのタイミングで、どんな条件がそろったときに操作すればよいのかを考え、何度も試しながら精度を上げていく必要があります。
マリオカートは、条件を整理し、試行錯誤しながら改善するというプログラミング的思考を、遊びながら自然に体験できるゲームなのです。
プログラミング的思考とは

マリオカートとの関係を見ていく前に、まずは、プログラミング的思考とは何かを整理しておきましょう。言葉は難しそうですが、中身は決して特別なものではありません。
コードを書く力とは別のもの
文部科学省は、プログラミング的思考を「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要で、どう改善すればより意図した活動に近づくのかを論理的に考えていく力」という趣旨で説明しています。
プログラミング的思考の中心にあるのは、以下のような考え方です。
- 目的を達成するための手順を組み立てる
- 「もし〇〇なら△△する」と条件を整理する
- うまくいかなければ原因を探して改善する
プログラミング言語を覚えたり、コードを書いたりすること自体が目的ではありません。物事を筋道立てて考え、よりよい方法に近づけていく思考の土台を育てることが重視されているのです。
なぜ、考えて試す力が重要なのか
変化の激しい現代では、あらかじめ用意された正解を覚えるだけでは対応しきれない場面が増えています。
例えば、以下のような状況では、自分で考えて行動する力が求められます。
- やり方が決まっていない課題に取り組む
- 一度で成功しなかったときに別の方法を試す
- 結果を振り返って次に活かす
こうした場面で必要になるのが、考えると試すを行き来しながら答えに近づいていく力です。これはプログラミングに限らず、勉強やスポーツ、将来の仕事など、あらゆる場面で役立つ一生もののスキルと言えるでしょう。
ドリフト・ミニターボで身につく、条件を考える力

マリオカートのテクニックの中でも、プログラミング的思考と特に相性がよいのが、ドリフトとミニターボです。ここでは、これらのテクニックにどのような条件の考え方が隠れているのかを見ていきます。
ドリフトは「もし〜なら」の条件分岐
公式サイトによると、Aボタンを押したままRボタンを長押ししてハンドルを切るとドリフトの状態になり、減速しないと曲がれないようなカーブでも、速度を落とさずに曲がれるようになります。
ただし、どこでもドリフトすればよいわけではありません。
上手なプレイヤーは、以下のような条件を無意識のうちに判断しています。
- カーブが急なら、手前からドリフトを始める
- ゆるやかなカーブなら、短めのドリフトで抜ける
- まっすぐな道なら、ドリフトせずに直進する
これは、プログラミングの条件分岐(if文)とまったく同じ考え方です。「もし〇〇なら△△する、そうでなければ⬜︎⬜︎する」という判断を、コースの状況に合わせて瞬時に行っているのです。
ミニターボの3段階で学ぶ、複数の条件
ドリフトを一定時間続けるとタイヤから火花が出始め、このときにRボタンを離すと 、ミニターボがかかって一気に加速できます。火花の色はドリフトを続けた時間によって変化し、段階が進むほどダッシュ時間が長くなります。
- 青色の火花:ミニターボ
- オレンジ色の火花:スーパーミニターボ
- ピンク色の火花:ウルトラミニターボ
プレイヤーは、「火花が何色のときにボタンを離すか」という複数の条件を見比べながら操作していることになります。プログラミングでいえば、「もし青なら」「そうでなく、もしオレンジなら」「そうでなく、もしピンクなら」と条件を段階的に並べる処理に近い構造です。
さらに、カーブの長さに合わせて、どの段階で離すのが最適かを考える必要があるため、複数の条件を組み合わせて判断する力が自然と鍛えられます。
設定によって、前提条件が変わる
マリオカート8 デラックスには、コースアウトしそうなときに自動で減速・ハンドリングをしてくれる、ハンドルアシスト機能があります。ただし、この機能がオンの状態では、3段階目のウルトラミニターボは使えません。
このように、ゲームの中では以下のような前提条件によって、使えるテクニックや結果が変わります。
- ハンドルアシストがオンなら、走りは安定するが最大の加速は使えない
- ハンドルアシストがオフなら、操作は難しいが最大限の加速を狙える
どちらが正解というわけではなく、自分の実力や目的に合わせて条件を選ぶことが大切です。プログラムも設定や前提条件が変われば動作が変わるため、「今どんな条件の下で動いているのか」を意識する姿勢は、とても重要なポイントとなります。
ドリフト・ミニターボは試行錯誤のトレーニング

ドリフトやミニターボは、最初から思いどおりに決められるものではありません。だからこそ、上達までの過程そのものが、プログラミングに欠かせない、試行錯誤の格好のトレーニングになります。
失敗の原因を分解して考える
ドリフトに挑戦すると、最初は以下のような失敗がつきものです。
- 曲がりきれずに壁にぶつかる
- ダートに入って大きく減速する
- 火花が出る前にボタンを離してしまう
ここで、うまくいかないで終わらせず、「ドリフトを始めるのが遅かったのか」「ハンドルを切りすぎたのか」と原因を細かく分けて考えることが上達の近道です。これは、プログラムの誤り(バグ)を見つけて直すデバッグの考え方そのものと言えます。
少しずつ変えて、結果を確かめる
上達が早い子どもほど、一度にすべてを変えようとはしません。
例えば、以下のように一つずつ条件を変えながら試していきます。
- ドリフトを始める位置を少しだけ手前にする
- ハンドルを切る強さを弱めてみる
- ボタンを離すタイミングを変えてみる
一つの要素だけを変えて結果を比べれば、何が効果的だったのかがはっきり分かります。プログラミングでも、少し修正しては動かして確認するという進め方が基本です。
失敗しても何度でもやり直せる
現実の世界では失敗を恐れて挑戦をためらいがちですが、ゲームの中なら何度コースアウトしても、すぐに再挑戦できます。公式サイトでも、慣れないうちはハンドルアシスト機能を使い、安定して走れるようになったらオフにして挑戦するという、段階的な練習方法が紹介されています。
そのため、以下のようなプロセスを安心して繰り返すことが可能です。
- 新しい走り方を試す
- 失敗から原因を見つける
- 少し難しい条件に挑戦する
この失敗から改善、再挑戦までのサイクルこそが、試行錯誤する力を伸ばすうえで非常に重要なポイントとなります。
タイムアタック・ゴーストで鍛える、考えて試す力

ドリフトやミニターボで身につけた条件を考える力と試行錯誤する力を、さらに一段上のレベルに引き上げてくれるのが、タイムアタックモードです。ここでは、タイムアタックとゴーストがどのように考えて試す力を育てるのかを解説します。
タイムアタックは結果が数字で見える実験場
タイムアタックは、コースを3周走って最速タイムを目指すモードです。ライバルは登場せず、使えるアイテムも最初に持っているトリプルキノコのみのため、純粋に自分の走りの技術を磨くことができます。
タイムアタックには、学びにつながる以下のような特徴があります。
- ライバルやアイテムによる偶然の要素が少ない
- 1周ごとのラップタイムが表示される
- 走り方の違いがタイムの差として表れる
結果がほぼ自分の走りだけで決まるため、「何を変えたらどうなったか」を正確に確かめられる、いわば自分の考えを試すための実験場です。
ゴーストは過去の自分と比べる道具
タイムアタックで最速を更新すると、その走りがゴーストとして記録されます。ゴーストとは一緒に走ることができ、ぶつかることもないため、自分の走りに集中しながら以前の走り方を振り返れます。
ゴーストと並んで走ることで、以下のような気づきが得られます。
- どのカーブで差が開いたのか
- ミニターボを使う位置は適切だったか
- 新しく試した走り方は本当に速いのか
プログラミングでも、修正前と修正後の結果を比べて改善できたかを確認する作業は欠かせません。ゴーストは、まさに、前回の結果と今回の結果を目で見て比較できる、優れた振り返りツールなのです。
仮説を立てて実行、検証して改善を行うサイクルが回る
タイムアタックとゴーストを組み合わせると、ゲームの中で自然と以下のサイクルが生まれます。
- 仮説:このカーブは手前からドリフトすれば速くなるはず
- 実行:実際にその走り方で走ってみる
- 検証:ゴーストやタイムと比べて結果を確かめる
- 改善:うまくいけば採用し、ダメなら別の方法を考える
この「考えて、試して、確かめて、直す」という流れこそが、プログラミング的思考の核となる考えて試す力です。自己ベストを更新したいという気持ちが原動力になるため、子どもは誰かに言われなくても、自分からこのサイクルを何度も回すようになります。
ゲームの学びを家庭で伸ばすポイント

マリオカートにはプログラミング的思考を育てる要素がたくさんありますが、ただ遊ぶだけでは楽しかったで終わってしまうこともあります。ここでは、家庭でゲームの学びをより深めるためのポイントを紹介します。
遊んだあとに、なぜを言葉にする
ゲームの中で身につけた考え方は、言葉にして振り返ることでより確かなものになります。
例えば、以下のような声かけがおすすめです。
- 「タイムが速くなったのは、何を変えたから?」
- 「どのカーブが一番難しかった?」
- 「次はどんな走り方を試してみる?」
自分の工夫を説明しようとすると、頭の中で手順や条件を整理する必要があります。この「説明する」というプロセスが、なんとなくの感覚を論理的な思考へと変えてくれるのです。
遊ぶ側から作る側へ
ゲームで培った考え方は、実際にプログラミングに触れることで、さらに大きく伸ばすことができます。
例えば、以下のような段階を踏むとスムーズです。
- ゲームで「条件」や「試行錯誤」を体験する
- ビジュアルプログラミングで簡単な動きを作る
- 自分でルールを考えたゲームづくりに挑戦する
「どうすれば速く走れるか」を考えていた子どもが、「どうすれば面白いゲームになるか」を考えるようになれば、プログラミング的思考は一気に実践的なスキルへと変わります。
まとめ
マリオカート8 デラックスは、単なるレースゲームの枠を超えて、プログラミング的思考を育てるトレーニングの場としても大きな価値を持っています。ドリフトやミニターボでは、どんな条件のときに、どう操作するかを考える力が、タイムアタックやゴーストでは仮説を立てて試し、結果を比べて改善する力が、遊びの中で自然と鍛えられます。
これからの時代に求められるのは、正解を覚える力だけではなく考えて試す力です。自分なりに工夫し、失敗し、原因を見つけて直すという経験は、教科書を読むだけではなかなか得られません。そしてその力は、夢中になって何度も挑戦できるゲームの中でこそ、楽しく育まれていきます。
お子さまがマリオカートで自己ベストを更新しようと工夫しているときは、ぜひその考えて試す力に目を向けてみてください。その経験は、プログラミングをはじめとした、これからの学びにつながる大切な一歩になるはずです。
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